です。それというのも、ゾウアザラシは、

したいときに、おなかを下にして座ること

ができるからです。ところが、王様は、王

座の上にいるときにも、いつもおしりを下

にして座っているのですから。     

あとがき


本書は、詩人ジャック・プレヴェール(1900~1977)の書いた童話である。日本では、詩集『パロール』の著者、シャンソン『枯葉』の作詞者、それに映画『天井桟敷の人々』のシナリオライターなどとして有名だが、童話をたくさん書いているということはあまり知られていない。何冊もあるすてきな童話のうちから、一冊だけと言われれば、まずは本書だろう。童話にかぎらず、プレヴェールの作品の本質的な点のひとつは、社会的に弱い立場に置かれている者たちへの理解の度合いが、並外れているという事である。これは、ややもすれば文学者として当然と思われようが、現実には極めて稀な事なのである。多くの読者に迎えられたゆえんだろう。本書の主人公は、すべて動物たちだが、動物でありながら、単なる動物ではなくて、どの動物も、いつかどこかで出会った人間に似ているという気がするのは、訳者だけの感想ではあるまい。すばらしい挿絵を描いている女流画家エルザ・アンリケは、プレヴェールの友人である。

                           布 施 佳 宏